果てしない漢字の収録について

鎌田正(東京教育大学名誉教授/『大漢和辞典 補巻』編者)


 前古未曾有と言われた諸橋轍次博士著の『大漢和辞典』(以下『大漢和』と称する)に収録している漢字の字数といえば、その第十三巻「補遺」の最後に載せている文字の番号が四万九千九百六十四字であったことから、一般には『大漢和』の親文字は五万字と言われている。
ところが、『大漢和』の親文字の文字番号を詳細に調査してみると、次に掲げるような誤りのあることが判明している。

同一の文字が二ヵ所に出ているもの

四十一字

文字番号が抜けているもの(欠番)

百七十一字

文字番号にダッシュのついているもの

五百十六字

 そこで、前記総文字数と記載している四万九千九百六十四字から、A+B(二百十二字)を引き、C(五百十六字)を加えると、五万二百六十八字となる。
 これに昨年刊行した『補巻』の八百三字を加えると、五万一千七十一字となる。人間の眼には限界があるので、以上の調査が絶対的に正しいとは断言できないが、現在の調査では以上がその実態である。
 ところが中国で先年刊行された『漢語大字典』は、五万九千百七十字を収録し、『中華字海』は、なんと八万五千五百六十八字を収録しており、さらにはまた『今昔文字鏡』が九万字を収録している。ただただ驚嘆にたえない。

 漢字の字数が以上の様に極めて多いということは、いわゆる異体字の多いことに基づくとも考えられ、私共が『大漢和』の『補巻』の編集に際しても深刻に考えたことであったが、現代的利用の点から考察して八百余字という程度に止めたものであった。
 しかも『大漢和』には「常用漢字」や「人名用漢字」における新字体を欠いているものがあり、また平成十二年十二月に発表された「表外漢字字体表」やJIS漢字の第三、第四水準などからも補うべきものがあったが(などを含む字)、それらは容易に理解できると考えて省いたものであった。
その点、精細を欠いた憾みのあることを率直に認めざるを得ない。

 およそ漢字文化圏における漢字文化というものは、広大無辺とも称すべきもので、甲骨文などで未解明のものが明らかにされたり、わが国の漢籍の版本などを調査すれば、漢字の字数はさらに増加するものと考えられる。現在使用されないからと言って終止符を打つことは許されないであろう。いつどこで、それが役に立ち、その時代や地域の文化の探求に役だつかはわからない。その意味で、文字鏡研究会が漢字の収録に絶えざる調査研究を積むことを切望してやまない。


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