はじめに

 孜々として作字、解字につとめた十年以上の歳月の末、ここに『今昔文字鏡』が世にでることになりました。

JIS漢字約6400字の12倍を越える「単漢字」約80000字をおさめ、しかも検索がまことに簡便という画期的な作品です。

中心となる考えは、古今東西のすべての漢字に対応できる至便な「字典」に仕上げるということで、今後ふえることが予想される新しい漢字の拡張にも十分な配慮がなされています。

 幸いなことに、その辛苦の一昔のあいだに、コンピュータは世界の誰もが予想だにしなかったほどの発達を遂げました。ことにパーソナル・コンピュータの進化が顕著です。

記憶容量が「バイト」という1桁台の単位から、キロバイト、メガバイトと増え、今やギガ・バイトと10億の単位で情報の出し入れができるようになり、そのため、膨大で複雑な漢字の扱いをまことに楽なものとしてくれています。

小刀で削りつけた甲骨文の時代、毛筆で竹や木や紙に書いた時代、木版、金属活字、写真植字といった時代を経て、今やコンピュータこそが、漢字にうってつけの「漢字の道具」となりつつあります。

「複雑性」ということばが今はやりですが、その複雑性のひとつの極にある漢字を処理するには、コンピュータこそが最適とみなせるのです。しかも、ウィンドウズのように、多くの作業がひとつの画面で行えるマルチタスク処理ができます。

嘗ての、漢字地獄といわれ、なんとか字数を制限しようとする意見の強かった時代とは環境がまるきり変ってしまったのです。

いみじくも金田一春彦氏は一昨年の暮に、これほどワープロがはやるなら、「当用漢字の制限はしなくてもよかったし、字体でも仮名遣いでも昔のままでもよかったのだ」(This is 読売 1995.12)と公に告白していることもあって、時の流れが漢字に向いてきたことをひしひしと感じます。

 紙が大切になるこれからの時代を考え、また『今昔文字鏡』の住みこんでいるコンピュータに関する啓蒙の意味もふくめ、「会報VOL. 1」はこのようにCD_ROMのヘルプ画面を使うことにしました。ワープロにさわったこともないという先生方には想像もされなかったような世界への登場です。

 様々なテーマをとりあげた小論の題名および筆者は左記の通りです。

ご執筆下さった方々には、この画面をかりて深く御礼申し上げます。

また、この字典の意図するところに理解を示して、形をなす以前からなにかとご協力くださった『大修館書店』ならびに『東京堂出版』にも、ふかく感謝もうしあげます。

平成九年二月

文 字 鏡 研 究 会
(株)エーアイ・ネット